傷口がまぶたのように開く。眠っていた痛みが鼓動し始める。静寂の中、赤い景色が揺れている。

無頼な独人となりて、この暗鬱な鈍色の空に俺の赤い心臓を高く差し上げよう。そして一枚の白い紙について語りきるのだ。しかし白い紙はまだ黙り込んでいる。かすかな息をしているかもしれない。しかし俺が語るたびに滲む赤が広がり、無垢な白は過去を飲み込んでいく。

旋律を載せたハチドリの羽音が遠い窓辺を、風洞化した胸元を揺らしている。そのひとコマ毎に微動しながら未完のオブジェが白黒フィルムの陰影で語り始める。

影は沈黙のうちに輪郭を歪ませ、滲む光がフィルムを焦がしていく。言葉になりきれない記憶の破片がハチドリの羽に乗り、遠くへ飛んで行く。

暗愁の傷つかぬがままに、無為に過ぎていく時間を黙って葬送するばかり。